フリーディアを出発してから三日目の朝。
俺達の目の前には……大きな森が広がっていた。
辺り一面見渡す限りの深い森。
鬱蒼と茂った木々のせいで日の光もあまり届かない森は薄暗く、森の奥がどうなっているのかは見当もつかなかった。
なんとも言えない……不思議な森だ。
やたらと静かで、時折吹き抜ける風が木々を揺らす音以外は何も聞こえない。
茫然と目の前の森を眺めていると、ジルは静かに乗っていた馬から降りた。
「……ロイ。メルキアまでの道は二通りある。一つはこの森を通り抜ける。これならもう二日もあれば着くだろう。もう一つは迂回してこの森を通らずに進む。これだと六日はかかる」
ジルはとても真剣な顔をして俺を見つめると、俺の答えを待つように首を傾げる。
「急いでるんだから、考えるまでもなくこの森を抜ける……だろ?」
そう言って馬から飛び降りると、彼と同じ様に首を傾げて見せた。
……相変わらずジルの質問の意味が理解出来ない。
「この森は《迷いの森》と呼ばれている。魔物はとても獰猛で強い。力の無い者が入ればすぐに死ぬことだろう。しかも強力な磁場により様々な感覚が鈍る。もちろん戦闘能力も落ちる事になる。その中で……お前は生き抜く自信があるのか?」
ジルはそう言うと、真っ直ぐに俺を見つめた。
その瞳に竦められる様にグッと息を呑むと、唇を噛み締めたまま俯く。
……生き抜く自信。
そんなものはあるはずがない。