気付かれない様に身を屈め息を殺し、静かに獲物に近付いて行く。

深いこの森の中では、風が木々を揺らす音と、鳥の鳴き声、それと緊張でドクドクと鼓動を速める自分の心臓の音以外、何も聞こえない。

目の前には小さなウサギがいる。

白いふわふわのウサギは愛らしい仕草で、ムシャムシャと美味しそうに草を食べていた。

そのウサギの丸い体に向けて、ゆっくりと狙いを定め矢を絞る。

ウサギは長い耳をピンと立て、モフモフと必死に口を動かしていた。

その可愛い姿に……矢を放すのを少し躊躇う。

しかし心を決め小さく息を吐くと、次の瞬間、思い切って矢を放った。

鋭い鉄の矢が物凄い速さでウサギへと向かって飛んでいく。

その矢がウサギに突き刺さる瞬間から目を背け、ギュッと目を瞑ったその瞬間、ガサガサと草の揺れる音が聞こえた。

そっと目を開くと……ウサギに矢は突き刺さっていなかった。