独りであることが必要だった。
誰かの面影を追うことに僕は疲れていた。
色褪せない思い出はゆっくりと胸に湧き上がっては溜め息に溶けていった。

後悔があるわけではなく、過去のあの瞬間に戻りたいわけでもなかった。
ただ壊れてしまった何かをかき集め棄ててしまえる場所を僕は欲っしていた。



被害者になりたい卑怯者を愛していた。
都合と方便とを巧みに使い分け、器用に立ち回れる、いっそ見事とも思える処世術を使いこなす姿は、誰といわず自分自身を含めながら、騙しきってしまえるのだろう。



空が遠かった。
川面のせせらぎが僕を誘っているようだった。
白鷺が羽を休める川面が…。





…揺らめいて流れていた。
僕は、特別になりたかった訳ではなく、幸せな時間が欲しかったのだ。



手をつないだ老夫婦が、犬の散歩を終えたのか戻ってくる。
木漏れ日は形を変え、深く長く影をのばしていた。
赤く染まっていく空と川面が紫紺になるまで、僕は座っていた。

…綺麗だな…。

遠くにクラクションの音をきいた。
気の短い運転手が混み始めたのだろう国道で苛立ちを込めならしたのだろう。
ぽっかりと空いた穴に滑り落ちるように、僕のまわりのすべてが消えた。



白鷺が何かに驚いたのか、突然空へと舞い上がった。

綺麗だな…。




…僕は、特別になりたかった訳ではなく、幸せな時間が欲しかっただけなのだ。