最初何をされてるか分からなかった。
とても久々なことだから。
高耶くんに聞いていた。光臣くんは約束の日に千春先輩と一緒にいたって。
やっぱり当たっていた。
こういう時の勘はよく当たる。
だから涙すらでなかった。
「知ってるよ。だって付き合ってから一度しかキスしてない。きっと唇の感触が千春先輩と似てるからだよ」
「それでもあいつが好きなんですか」
「多分」
「バカな人ですね」
「そうだね。覚悟はしてたよ」
高耶くんに絵をあの絵を見せた。
ガラス越しの君と僕
付き合い出してからすぐに描いた絵。
毎日見ながら、自分に言い聞かせた。
すぐに終わりがくる。
自分はあの人にはなれない。
だから彼が私から離れて行くまでの毎日を大切にしようって。
「なら調度良いや。その誓いオレに下さい」
高耶くんの声が引くなった。マフラーを欲しいとねだられた時みたいだ。
「オレはあなたが好きです。あいつみたいに誰かを花蓮さんに重ねるあほなことはしない。だからいつかのための誓いをオレに下さい。あなたが死んでもあなたを好きでいますから」
クリスマスの日の告白に私は何も答えることは出来なかった。
「半永久的に有効なんでいつでも返事をください」
高耶くんは一方的に話して帰って行った。
高耶くんは曖昧な態度しかとれない私をせかすでも
なく会いに来てくれている。
今日も美術室にいた所に来てくれた。
でも光臣くんも来て、突然キスされた。
「何?」
小さな声しかでなかった。
「クリスマスイブはごめん。何の連絡もしないで」
「高耶くんに聞いた。千春先輩と一緒にいたんでしょ」
「あぁ」
理由なんて知りたくないから聞かない。
「オレはようやく気づいたんだ。オレがどれだけお前に惚れてるかを」
「で?」
そう聞けば、辛そうに眉を寄せた光臣くん。
「知ってるよ。光臣くんはずっと好きだったんだよね。千春先輩のこと。変わりなんだって思っても一緒にいてくれて嬉しかった」
光臣くんからはさようならできないだろうから。
私から離れるきっかけを作ってあげる。
「いつかは来るかなって思ってたから。私は平気だよ」
毎日、ケータイを見て自分を戒めていたから。
「花蓮?」
「光臣くんと千春先輩はみんなお似合いだって知ってる」
「おい、花蓮」
「今度は間違わないでね」
頑張ってと言おうとしたら
「何言ってんだ!テメェはっ」
肩を掴まれて壁に叩き付けられた。
「オレの話し聞いてたか!オレはお前に惚れてるって言っただろうが」
私が怒鳴られる意味がわからない。
「いつまで?」
「あ?」
「期間限定ならいらない」
半年、一年しか続かないなら、いつか無くなってしまうならいらない。
「ずっとだ。お前だけだ」
「嘘だ」
「嘘じゃない」
「嘘!」
「嘘じゃないって言ってんだろうが」
平行線をたどる私たちの会話。
「花蓮、どうしたら信じてくれる?」
「嘘ばかりだもん」
私は知ってるの。
君が、私に何度も嘘をついてたことを。
「って、最初から嘘ついてるじゃない!どこ信じたら良いの」
「もうしないから。命かける」
気づいたら、光臣くんの鳩尾に一撃決めてた。
「簡単に命をかけるなんて言うな」
美術室を飛び出したけど、絵を描く道具を忘れたから戻った。
うずくまる光臣くんの横を通って道具をつかんで廊下を走った。
簡単に命をかける奴なんてもっと信用できない。
晋兄ちゃんが言ってた。
そんな大事なものを簡単に掛け金にするやつは、何度も同じ安い行動をことを繰り返すって。
涙がでそうになるのを堪えた。
早く帰ろう。
教室に戻ってかばんを持って帰ろうと教室をでると入口で光臣くんにまた捕まってしまった。
「このやろう、いきなりみぞパンチしやがって」
「光臣くん…」
「オレが軽い気持ちで命かける男だと思うなよ。オレは執念深いんだ、簡単に逃げられると思うなよ。これが証拠だ」
光臣くんが私に突き付けてきたのは、大学入試の願書だった。
学校名をみると、多岐川美術大学と書いてあった。
私の大学と同じ。
「合格は無理だと思うよ。光臣くんの描いたウサギ、地球外生物でなんか悍ましい」
光臣くんは尋常じゃなく絵が下手くそで、その彼が美大で何するつもりなのだろう。