目の前に映るのは誰もいないただっ広い家で。
 

「……芙美(ふみ)」


戻らない弟の名前を和葉は呼んだ。もしもあの時自分が外へ行くのを止めていたら、彼は死なずにすんだのだろう。

ただでさえ嫌いな自分がもっと嫌いになった。



君の声が聴こえる



その日は、鮮やかな月が印象的な夜だった。


宅配便のお兄さんは大きなダンボールを和葉に渡すと、軽く頭を下げて去っていった。

送り先は離れて暮らす研究員の父親で、それだけで不審なのに中はずしりと重く受け取った場所から和葉が運ぶのは不可能だった。

縦に長く、横に短い。百二十五センチ程度はある。

いったい何を詰めておけばこんな大きさになるのだろうか。

第一普段父から郵送されてくるのなんてろくでもないもので巨乳になる薬だとかフェロモン薬だとか、和葉に喧嘩を売っているとしか思えないものばかりだった。

今回は、いったいどんなものが入っているのだろうか。


「何なの、コレは」