「ユリアちゃん?」

柔らかい声が私を呼んだ。
猫のように、足音すら立てずに歩いていたジャックが、私を心配そうに見ている。

「え?」

「大丈夫?
なんか、心ここにあらずって感じだよ?」

「え、うん。全然平気」

とりあえず返事をする私に、ジャックが簡単に私に手を伸ばしてきた。

「今は猫の姿じゃないから頬とか舐めてあげられないけど、良かったら」

よよよよよ良かったら、じゃないわよ。

でも。
まぁ、いっか。

ジャックは猫だし。

よく分からない言い訳を自分の中で無理矢理して、伸ばされたその手を掴んだ。
その瞬間、あまりの冷たさにぞっとした。

私は平静を保とうとしたのだけれど、その時既に遅く。


ジャックの青い瞳が緩やかに私を捉えていた。

「ごめんね、手が冷たくて」

「ううん……。吸血鬼って、冷え性なの?」

わざと茶化すように言って見る。

でも、ジャックはくすりともしてくれなかった。

「もうすぐ、死んじゃうから。
徐々に体温も下がってくるんだって。
神様が、言ってた」

と。
淋しそうに、ぽつりとそう言った。