――翌朝。

私は目が覚めたとき、枕を抱いてなかった。
思わず横を向く。

キョウは居ない。
でも、そこは温かかかった。

……どうして。
  私が目覚めるまで居てくれなかったの?

「キョウ」

私は左手の薬指に囁いた。

『おはよう、ユリア』

頭の中に、優しい声が響く。

「どうして?傍に居てくれないの?」

『ごめんね、仕事が立て込んでいて』

「キョウの仕事ってなぁに?」

初めて、そう聞いた気がする。
頭の中で、キョウの声が低く笑った。

『ユリアを気持ちよくしてあげること☆』

……何言ってるか、意味わかんない。

思うんですけど。
私とキョウの間には、通訳者が必要なんじゃなくって?

もしくは、下ネタ禁止令……とか。



昨日まで何かを漠然と不安に思っていたことも、今、真面目に話したことすら時間の損をした気分になって、肩を竦める。

『だから待っていて』

「ジャックは?」

『約束どおりリビングに送り届けたよ。じゃあね、ハニー』

私は、頭の中の声が消えたのを確認して、黒曜石の指輪に一度だけキスを落とした。