「もう、夕食の時間だよ。
一緒に帰ろう?」

ゆらり、と。
ジャックは陽炎を思わせるような儚い笑顔を浮かべる。

「俺、外猫だから。
ご飯の心配なんて不要だよ」

ジャックは外で過ごすことに馴れてしまった、猫の眼差しで私を見た。

心に突き刺さるような、痛い視線。

「ダメよ。
私が拾ったの。
キョウだって、それで良いって言ったんだから、ね?」

私はくるりと振り向いた。

私と違って、息一つ切らしてないキョウは私たちから5歩分、離れたところに立ってこちらを真っ直ぐに見ていた。

ライトの加減で、その表情はよく見えない。

のに。

何故か私の心臓はズキュンと痛んだ。

あ、あれ?
私の心臓、どうか……しちゃった?


無意識に掴んでいたジャックの手をなんとなく放す。

「キョウ?」


どちらの手を掴めばいいのか、どっちに近づけば良いのか全然分からなくなって。
私は丁度その真ん中あたりに立ち止まってしまった。

電線に引っかかった凧みたいに。
身動きが取れなくなったのだ。


その時、吹きすさぶ冬の風が一際肌に冷たく感じた。