膨れる私に向かって、
「別に、赤い鼻のユリアだって可愛いのに」
と、ちっとも悪びれていない悪魔を連れて、スターバックスに入る。
私はトナカイじゃないっつーの!!
隣の席のOL二人組がキョウを見てなにやらひそひそ盛り上がっているけれど、気にしないふりを装って、私は暖かいコーヒーを口に含んだ。
カフェインが冷えた身体を温めていく。
その、心安らぐコーヒーの香りで。
私はふと、一つの言葉を思い出していた。
「ねぇ、キョウ」
「ん?」
熱心にも、コートのポケットに入れていた本を持ち出しては眺めていたキョウが、そこから視線を上げた。
「ジュノから聞いたんだけど。
テンマって、なぁに?」
その、言葉を口に出した瞬間。
まるで、それが手榴弾でもあったかのように。
キョウの表情が、一瞬のうちに凍り付いていく。
言わなきゃ良かった、と、後悔した頃にはキョウはその顔に何でもないような穏やかな笑みを浮かべていた。
「さぁ、なんだろうね?
ジュノはなんだって言ってたの?」
私は記憶を辿ってみるが、霞がかかったように思い出せない。
「忘れちゃった」
「そう。ユリアが気にする言葉じゃないよ。
俺はいつだってユリアの幸せだけを願ってるんだから。他の事は気にしないで?」
それが、満月が放つ淡い光を思わせるようなあまりにも穏やかで柔らかい笑顔だったから。
私は、こくりと頷くほかなかった。
「別に、赤い鼻のユリアだって可愛いのに」
と、ちっとも悪びれていない悪魔を連れて、スターバックスに入る。
私はトナカイじゃないっつーの!!
隣の席のOL二人組がキョウを見てなにやらひそひそ盛り上がっているけれど、気にしないふりを装って、私は暖かいコーヒーを口に含んだ。
カフェインが冷えた身体を温めていく。
その、心安らぐコーヒーの香りで。
私はふと、一つの言葉を思い出していた。
「ねぇ、キョウ」
「ん?」
熱心にも、コートのポケットに入れていた本を持ち出しては眺めていたキョウが、そこから視線を上げた。
「ジュノから聞いたんだけど。
テンマって、なぁに?」
その、言葉を口に出した瞬間。
まるで、それが手榴弾でもあったかのように。
キョウの表情が、一瞬のうちに凍り付いていく。
言わなきゃ良かった、と、後悔した頃にはキョウはその顔に何でもないような穏やかな笑みを浮かべていた。
「さぁ、なんだろうね?
ジュノはなんだって言ってたの?」
私は記憶を辿ってみるが、霞がかかったように思い出せない。
「忘れちゃった」
「そう。ユリアが気にする言葉じゃないよ。
俺はいつだってユリアの幸せだけを願ってるんだから。他の事は気にしないで?」
それが、満月が放つ淡い光を思わせるようなあまりにも穏やかで柔らかい笑顔だったから。
私は、こくりと頷くほかなかった。