エアコンの稼動音だけがリビングの中に響いている。

私は勉強に見切りをつけて、シャーペンを置いた。
キョウはいまだに真剣な瞳で、その(多分、いかがわしい)本を見ている。

「ねぇ、キョウ」

「ん?」

「ジャックって」

「誰?」

キランと、その瞳が一瞬氷の冷たさを帯びる。
しまった。

「あの猫と吸血鬼のハーフさん。通称ジャック」

私は慌てて言い添える。

「ずっと人の形を保っていることは出来ないの?」

いつ、姿を変えるか分からないものを連れ歩くのは危なっかしくて出来ないけど。
キョウは本から目をあげた。

「そのくらいなら、出来るけど」

「お願いしてもいい?」

「アイツの願い?」

「違う、けど」

でも。
私は軽く唇を噛む。

「私の、願い」