私は、出かける前に猫を掴みあげた。
ブルーサファイアの目に、視線を合わせる。

「私は学校に行くけど、予定が無いならここに居てくれていいから」

「にゃお」

答えた返事の意味は、もちろん私には分からない。

「っていうかさ、キョウが正体明かしてぱっと助けてあげるわけにはいかないの?」

私は声を潜めて聞いてみる。
魔王様なんだし。なんでも出来るんじゃないかしら?

キョウは、やれやれと言った感じで肩を竦めた。
そして、私の耳元でそっと囁く。

「俺の正体をアイツに明かしてはいけないよ。
俺は万能じゃない。過度な期待を抱かせるのは良くないことだ」

キョウのケチ。……って思ったけど存外に真剣な口調だったので、それ以上は追求しないことにした。



歯磨きを終えた私は部屋からカバンを持ってくる。
なんだかんだで、登校時間が迫っているのだ。


「ユリア、行ってきますのチュウは?」

玄関先でそう言われて、きっとキョウを睨んでしまう。
もぉ、昨夜からそんなのばっかり。

悪魔といえどももうちょっと、自制心を持ったらどうかしら?


「べぇーだっ」

いまどき子供でもやらないかもしれないけど、私は右手で目の下を引っ張り、思いっきり舌を出すと、キョウの瞳が淋しそうな色に染まったことなんて気付かないふりで、マンションを飛び出した。