「……やっ……ん……っ」

どうしてこうも器用なのかと呆れるほど素早く、人のセーターを脱ぎ捨てさせて、テーブルの上へと投げる。

「ダメだって、ね。
せめて、ベッドの上で……しよう?」

火照る頬をそのままに、なんとか言葉を搾り出す。
その声はまるで吐息と同化した様に、余計な熱を帯びていた。

「今更?」

キョウの黒い瞳は、まるで黒真珠のような艶を帯びて柔らかい光を放っている。

いまさら……って?

言葉の意味を考えようと頭を巡らせたときには、上半身は剥きだしで。
遠慮なく揉み解した乳房を熱い口内に銜えられた私は、力なく戦慄(わなな)くほか無い。その間にも彼の指先は休むことなく、知りすぎているウィークポイントをくすぐるようなタッチで触り続けている。
容赦ない攻めに理性は蕩け、甘美な蜜となって私の身体の中を駆け巡っていく。体温はどこまでも上昇し、熱い吐息となって唇から漏れる。



「こんなになってるのに?」

絶対に隙間無いはずのジーンズの中に手を突っ込むその技は、プロ級だと認めてあげてもいい。
……何のプロかって聞かれても困るけど。

指だけでひたすら人を弄んだ後、いたずらに濡れた指先を取り出して、私の目の前で煽るように舐めてみせる。
その紅い舌は不必要なほどに卑猥な音を私に聞かせる。

「もうっ」

そう言ったつもりだけど、言葉に出来たどうかは定かじゃない。
ゆっくり脱がされていくジーンズだって、もう。
テレビの中の出来事のように遠くに感じる。

こうして、唇に落とされるキスは、今でもう何度目だろうか。
数え切れない。
そして、その、時に触れるだけのように軽く、時に奪いつくすかのように深くなるキスにさえ、私はただ翻弄されているだけだ。

どこか近くで、猫の鳴き声が耳を掠めたような気がするけど。
その頃、もう、私はそれどころじゃなかった。

昼間と同じ明るさを保つ蛍光灯の下で、気づけば。
脱ぎ散らかした二人分の服をそのままに、私は淫らに身体を重ねていた。

その瞳を怪しく煌かせる、悪魔と共に。