キョウはずんと私に近づいて、慣れた手つきで人の顎を持ち上げ、唇が触れそうなほど近くに顔を寄せた。
「へぇ。
他の男にはさせるのに、俺にはダメって言うんだ?」
耳に注ぎ込まれるテノールの声。
綺麗な顔に、一瞬。
どきりとするような暗い影が落ちる。
黒い瞳が、淋しげに揺れる。
うう、絶対に嘘だよね?
そうやって被害者みたいな顔して、私を落としいれようとしてるでしょう?
身動きが取れない私の耳にそっと唇を寄せて、風の息で囁いた。
「ユリアって淫乱」
「ちがっ……んんっ」
あまりにも突然、耳に舌をねじ込まれるのでどうしようもない声が漏れる。
そのまま耳たぶに、うなじ、首筋に沿って丁寧にその、紅い舌が這っていく。タートルネックのセーターが、伸びるほどに引っ張りながら。
お陰で逆のほうに逃げようとすると首が苦しくなるため、私は大きく逃げ出せない。
そのうちに、彼は軽々と私を抱き上げ、椅子の上に座った自分の膝の上へと私を抱え上げていた。
唇に、耳にと執拗に這ってくるその舌は、恋人同士の普通のスキンシップのレベルをずっと昔に越えている。
「いや……キョウっ」
「あんまり騒ぐと猫ちゃんが起きるよ?俺はそっちのほうがいいけどね」
よ……よくないっ。
絶対よくないっ。
私はなんとか残っている理性をかき集めて口を開く。
「分かったから。ね?
血を飲んでいいから」
必死になって、セーターの中に這ってくる手と戦っている私を見て、キョウはくすりと笑う。それは、草食動物を手中に収めて後一歩で止めがさせると確信している肉食動物の余裕にも似た笑いだった。
背中にゾクリと恐怖に近い何かが走る。
「俺、人の血なんて飲む趣味無いの。
別のアレなら飲みたいけど。ね、今すぐここで飲ませて、ユリア」
絶望に近い眩暈が、頭の中を駆け抜ける。さっきの話は、嘘なわけ?
……絶対ダメっ
そう叫びたいのに、もう。
快感に翻弄されていた私の唇からは、吐息と、言葉にならない喘ぎ声のような悲鳴しか漏れてはこなかった。
「へぇ。
他の男にはさせるのに、俺にはダメって言うんだ?」
耳に注ぎ込まれるテノールの声。
綺麗な顔に、一瞬。
どきりとするような暗い影が落ちる。
黒い瞳が、淋しげに揺れる。
うう、絶対に嘘だよね?
そうやって被害者みたいな顔して、私を落としいれようとしてるでしょう?
身動きが取れない私の耳にそっと唇を寄せて、風の息で囁いた。
「ユリアって淫乱」
「ちがっ……んんっ」
あまりにも突然、耳に舌をねじ込まれるのでどうしようもない声が漏れる。
そのまま耳たぶに、うなじ、首筋に沿って丁寧にその、紅い舌が這っていく。タートルネックのセーターが、伸びるほどに引っ張りながら。
お陰で逆のほうに逃げようとすると首が苦しくなるため、私は大きく逃げ出せない。
そのうちに、彼は軽々と私を抱き上げ、椅子の上に座った自分の膝の上へと私を抱え上げていた。
唇に、耳にと執拗に這ってくるその舌は、恋人同士の普通のスキンシップのレベルをずっと昔に越えている。
「いや……キョウっ」
「あんまり騒ぐと猫ちゃんが起きるよ?俺はそっちのほうがいいけどね」
よ……よくないっ。
絶対よくないっ。
私はなんとか残っている理性をかき集めて口を開く。
「分かったから。ね?
血を飲んでいいから」
必死になって、セーターの中に這ってくる手と戦っている私を見て、キョウはくすりと笑う。それは、草食動物を手中に収めて後一歩で止めがさせると確信している肉食動物の余裕にも似た笑いだった。
背中にゾクリと恐怖に近い何かが走る。
「俺、人の血なんて飲む趣味無いの。
別のアレなら飲みたいけど。ね、今すぐここで飲ませて、ユリア」
絶望に近い眩暈が、頭の中を駆け抜ける。さっきの話は、嘘なわけ?
……絶対ダメっ
そう叫びたいのに、もう。
快感に翻弄されていた私の唇からは、吐息と、言葉にならない喘ぎ声のような悲鳴しか漏れてはこなかった。