キョウは神経質そうな長い指で私の手をとる。
そうして、占い師のようにじっくりと私の手の甲を眺め始めた。

私は手持ち無沙汰を覚え、ふとキョウの顔へと視線を移す。
俯き加減の顔に、ウェーブした黒髪がかかっている。
その奥に見える長い睫毛。筋の通った鼻梁。

……うっ。
じっくり見るんじゃなかった。

なんでこう、半年経っても見慣れないくらい綺麗な顔をしてるんだろうか。
誰? 美人は三日で飽きるなんて私に嘘を吹き込んだのは。

うっかり込み上げてくる吐息を無理矢理飲み込む。

「ふぅ」

と、私の代わりに溶けそうな息を吐いたのはキョウだった。
おもむろに人の手をとりあげて、そのまま口許へと持っていきそっと唇付けた。

直後、顔をあげて上目遣いに私を見たので、無遠慮に見蕩れていた私と思わず視線が絡む。
ドキリと赤面したことに気づいたのか、キョウは面白そうに形の良い黒い瞳をそっと眇めた。

「俺もこのまま飲んでいい?」

ファーストフードでついでにサラダを頼んで言いかと聞くような気軽さで、キョウが問う。

「……一応聞いてみるけど、何を飲むの?」

私のほうは警戒心剥きだしで口を開く。
キョウは形の良い顔を淫靡に歪めて、笑ってみせる。

「そりゃぁ飲みたいものは色々あるけど。今は、血ってことで」

……『ってことで』じゃない、ってことでじゃ。
軽い口調に呑まれて後一秒で頷きそうになっていた私は、慌てて手を引っ込めて首を横に振る。