私は話の流れをぶった切って、テーブルに着く。
一息吐いて、真っ直ぐな瞳でキョウを見た。

「約束よ、キョウ。
アレがなんなのか、教えてくれるのよね。
猫と吸血鬼のハーフで、自分の意思で変身出来ない。
そんなのがどうして人間界に?」

何かが壊れているとしか思えない。
そうちょくちょく、人間界に魔界からの来訪者がやってきてくれても困るんだけど。

キョウは穏やかに微笑んだ。

「教えたくないな。
折角ユリアが捨てに行く気になっていたのに。
コレを聞くと、多分。
アレと暮らすって言い出すもの。
俺、妬くよ?」

さして本気とは思えないようなのんびりした口調だが、油断ならない。

こういうのを適当にあしらうと、後になって『あの時折角俺が忠告したのに、ユリアが無視したから』とニコリと笑顔で言われる事態に陥る羽目になるのだ。

だから、慎重に。
ここは、ちょっと利率の高い金融会社でお金を借りるときと同じくらいに慎重にならなければいけない。

「じゃあ、何も聞かずに捨てるべき?」

私は言葉を選ぶ。ここで感情的になって『とりあえず教えてよ!』なんて言ってはいけないのだ。うーん、百合亜、少しは成長してるかしら?


くくっと、また、キョウが楽しそうに笑う。

「でも、ユリアあげちゃったんでしょう、その血」

「うー……スミマセン。油断してました」

私はさすがに罪悪感に襲われて、少しだけ瞳を逸らした。
猫ならともかく、詰まるところはあの素敵な王子様に手の甲に歯を立てられたとなると、事故とはいえ恋人に対する申し訳なさを感じずにはいられない。

やっぱり嫌だもん。どこかの美女がキョウの手の甲に歯を立てたって聞いたら……多分。

「噛まれたところ、見せて?」

今ではもう、何の痕も残っていない左手の甲を差し出す。