私は、たまらずキョウに抱きついた。
ほとんど、キョウは私から手を放しかけていたのだけれど、かまわずぎゅうっと。

色魔が愛した人を抱かなかった理由、今なら分かるわ。
あんな刹那的な繋がりだけで、この、深い想いが満たされるはずないもの。

色魔だからこそ、それが分かったのかもしれない。

……私は、別に、色魔なんかじゃないけれど。

「転魔、する」

「ユリア?」

キョウはきっと、目を見開いて私の名を呼んだのだろう。
見なくたって分かる。

「いいわよ。連れて行って」

魔界の言葉なんて分からないけれど、そんなの勉強すればすむことだわ。

キョウが日本語を堪能に操れるんだから、きっと私にだって出来るわよ。
そして、いつか魔界の言葉で、蚊の生態について自慢ったらしく説明してあげればいいわ。

えーっと、ジュノか誰かに、ね?





しん、と。

クリスマスにぴったりなほどの、静寂が。

部屋の中に舞い降りていた。