「ジャックが、私のこと……?」

いつから?
必死に記憶を辿ってみる。

……心当たりなんて、ない。

コップを片付け終わったキョウが、私の傍に寄ってきて頭にキスした。

「最初から。
それに、いつだったかジャックが自分で言ってたじゃない」

呆れた色の低い声。
でも、今はキョウの声の色を気にするよりも、ジャックのことが気になる。

「何て?」

「吸血鬼が人の血を吸うのは、蚊に似ているとかなんとか」

「それが、何か?」

「蚊がどうして人の血を吸うか知らないの?」

『高校生にもなって九九も知らないの?』なんて、常識力を測りかねるような、いっそ哀れむような瞳で私を見るのは止めていただけません?

私が馬鹿なんじゃなくて、アナタが雑学王なのよ。
と言いかけて言葉を呑む。それもまた、説得力に欠けると思い直し、別のことを言う。

「食事代わり?」

キョウは肩を竦めて、向かいの椅子に座り、持て余すように長い脚を組んだ。

「人の血を吸うのはメスの蚊だけ。
それに、血を主食にしているわけでもない。花の蜜や草の汁が主食だとか、ま、それはどうでもいいか。
メスの蚊は吸血することによって、卵巣を発達させ卵を産む。
……って、なんで俺が蚊のメカニズムを説明しなきゃいけないんだ?」

最後はひとりごちてぼやいている。
相変わらず、博識な悪魔だと目を丸くしている私の前で、牽制するように紅い唇を開く。

「まさか、今の話で、ジャックは女だったのか……、とか思ってるわけじゃないだろう?」

まだ何も言ってないのに、決め付けるのは酷いと思うの。