「もぉ!
全然可笑しくないし、そもそもどうしてジャックがお人よしなのよっ」

その説明、全く受けてないんですけど。

キョウはひとしきり笑い終えた後、目尻に浮かぶ涙を拭くっていうサービスまで見せ付けてから、キッチンにカップを片付けに行った。

「そうやって、ユリアが悩むくらいなら、自分のモノにしてやろうって思ったんだよ。
ユリアって、妄想力豊かな割には想像力乏しいよね」

さらりと、人を傷つけていくのは悪魔の特技なんだろう。
ぐっと唇を噛む私に、畳み掛けるようにキョウが言う。

「でも、ジャックの気持ちには気づいてたよね?」

「……ジャックの、気持ち?」

脳裏に過ぎるのは、儚げな笑顔。
首を傾げる私を、カウンター越しに見つめるのは呆れた瞳。

「ユリアって、鈍感?」

失礼ですよー、いくらなんでも。

「あの瞳、見れば分かるでしょ。
それなのに、俺よりジャックを選ぶって。
てっきりユリアはそう宣言したのかとも、思ったんだけど」

と。
そのシーンを思い出したのか、表情を曇らせてキョウが言う。

ぶんぶんぶん。
考える前に、首を大きく横に振る。

まさか。
そんなの。
全然、ちっとも。


予想だに、しなかった。