なのに、キョウはそんな壁なんて見えないかのように平然と手を伸ばし、当たり前のように私の頬をその大きな手のひらで撫でる。

そして、呆れたように言った。

「ユリア。
俺をそこらの使い魔と同レベルで見るのは止めてもらえるかな?」

「でも、結界張るんでしょう?」

「まぁ、ジュノは通れなくなるかもしれないな。
……俺の力無しでは」

それが、彼にとってどれほどの痛手なのか計り知れなかったけれど、私にとっては、ジュノに気軽に逢えなくなるのは淋しいことのように思えた。

「どの道、魔界時間ですぐとは言え、人間界に換算したら5年は先の話さ」

そこまで言うと、キョウは私の頬から手を放し、重たそうに息を吸った。

「それまでには、どちらかに道を決めなければいけない」

「……それって」

転魔のこと、だよね?


私の声がよほど悲痛だったのだろうか。
ふっと、キョウが緊張を緩ませたかのように、優しく微笑んだ。

儚さを帯びた、切ない微笑に、胸が痛くなる。

キョウは空になったカップを持って立ち上がった。