キョウは、つまらない映画を見た後のように軽く肩を竦める。

「残念なことに、マリアは自分との関わりを見せる全ての証拠を丁寧に消しているみたいで、あの使い魔の残骸だけを持って罪に問うことは出来ないほどに」

「どうするの?
……戦争?」

不安げに問う私を見る、キョウの瞳にふっと、優しさが宿る。
マッチの炎くらいに小さく儚いものだけれど。

「して欲しい?」

「……しないで欲しい」

そこが魔界だろうが、人間界だろうが。
戦争なんて物騒なこと、どんな理由があろうともやって許されるなんてはずはない。

「そう言うと思った。
だから、何もしない。
マリアとはコンタクトを取らない。
使い魔如きが人間界に来れるほど、結界が緩んでいることに問題があるんだ。

だから、結界を全て閉じることにした」

「……閉じる、って?」

さらりと告げられた言葉の、あまりもの重みに眩暈を覚える。

「言葉の通り。
人間界と魔界が容易に行き来できなくなるってこと」

「そんなのって」

頭を殴られたような、強い衝撃が体に走って言葉が続かない。

こうして同じテーブルを挟んで座るキョウと私の間に、分厚い防弾ガラスで壁を作られたような気がした。

手を伸ばしても、二度とは届かない、ような。