さすがに、このままベッドに横になっていたら、あらぬ疑いを掛けられること必至。

淫乱ユリアという誤解を晴らすためにも、時差ぼけによる疲労と倦怠感、そしてさっき見たキョウの表情が意味するものに対峙したくない思い、それらを懸命に振り払ってベッドから降りた。

私のブーツとコートを所定の位置に戻したキョウは、お湯を沸かしながらハーブティーを淹れる準備をしていた。
そんな日常動作の一つ一つでさえ、無駄がなく洗練されていて、思わずうっとり眺めた挙句ため息をつきたくなるから怖ろしい。

カモミールとセントジョンズワートを基本に、その他いくつかのハーブを混ぜて作った飲み物を、コップに注いでくれた。

話の前の一杯にこれを出すってことは、今から、何か、そうとう精神が乱れそうな良くない話でも切り出すってこと?

なんとなく、疑心暗鬼にかられながら、美味しそうな湯気のあがる熱いハーブティーに息を吹きかける。

少しでも時間を引き延ばそうと、ゆっくりゆっくりハーブティーを飲む。

「××から報告があったんだけど」

「誰から?」

いつものように固有名詞が聞き取れない私は、視線をあげてキョウを見た。
そこにあったのは、いつもと変わらぬ自信に満ちた表情で、それを見て何故だか胸を撫で下ろす自分に少し驚く。

「ああ、神から」

一切の尊敬の念をそぎ落としたような冷たい口調でざくっと言うと、キョウは話を続けた。
私の脳裏に、あの、性別さえも分からない壮絶なまでに美しい神様の容姿が浮かんでくる。

「ユリアを刺したのは、マリアの使い魔だったそうだ」

……マリア。

キョウのことを愛して止まない魔界のモノだ。
久しぶりに聞くその名前に、背筋が粟立つ。