「だって……」

言い訳を始めようとした私に、キョウは怪訝な瞳を向けた。
そして、つまらなそうにぼそりと呟いた。

「ほんっとに、あの、黒猫は」

そうして、感慨深げな表情になると、私のことなんて忘れたかのように身体を起こした。

あれ?
お人よしなのって、……私じゃなくて、ジャック?


魔界じゃ、人を襲うことを「お人よし」って言うのかしら。
そうよね、じゃなきゃ……。

とん、と。
キョウは身軽にベッドから降りる。

そして、横になったまま身動きが取れないでいる私に緩やかに視線を向けると、くすりと笑う。

「そんなに今すぐヤりたいの?
ユリアって、本当に淫乱だよね。
昨夜のアレじゃ物足りなかった?」

「そ、そんなわけないじゃないっ」

私は赤面して思わず身体を起こす。
その言葉に、キョウは再びくっと喉を鳴らした。

「そっかー。
昨夜は大満足だったんだ。ユリアってあのくらい激しくないと満足できないタチなんだね」

……そ、そんなわけないじゃない。

ここでもう一度同じ台詞を言うのが果たして得策かどうか、まるで分からなくなってうっかり口篭る。

キョウは私が脱ぎ捨てたブーツとコートを手にくるりと踵を返した。
その刹那。

私の瞳に映った彼の表情からは、冗談で浮かべた笑顔が全て消えうせていて。
何故か、とても物憂げな表情だったのだ。

まるで、消え行く前のジャックにも似た儚さ。
唯我独尊を地で行くキョウに不釣合いな表情に、私の口許からも笑みが消えてしまった。