彼の瞳が、一瞬収縮した。
そして。
直後に、親しみを込めた笑顔を浮かべて私を見る。

「なぁんだ。
ただの人間なんかじゃないじゃない。
てっきり、半端モノの暗示にかからないだけかと思っていたんだけれど、本物の暗示にもかからないんだね」

「ええ、そうよ。
私はアナタの暗示にはかからないわ」

見詰め合って言葉を交わすだけで、何かが変わることに気づいた私はジャックの目から瞳を逸らさずにそう言った。
さっきと同じ、ゆったりとした口調で。

「ユリアちゃん、折角だからコーヒーでも飲んでいかない?」

唐突に、ジャックが儚い笑みをその口許に乗せた。
今までなら、気になって仕方が無かったその笑みですら、今の私には半分罠に見える。

「いいえ。帰らなきゃ」

「冷たいんだね」

「そんなことないわ。最後にちゃんと、話がこうして出来たじゃない」

強引に笑ってみせる。そして、続ける。

「だから、バイバイ」

手を真っ直ぐにあげて。
パチリ、と指を鳴らした。

懐かしい我が家に辿り着くことだけを考えながら。