『だってジャックはそんな吸血鬼じゃないよね?』

そう言いたかったのだけれど、確かに、私の思い込みといわれればそれまでだ。

……流されちゃ、ダメ。
私は、首筋にかかるジャックの吐息に惑わされぬよう、左手薬指の指輪に意識を集中する。

吐息には、媚薬効果でもあるのか。
気を許すとふらっとしてしまう。

今なら、吸血鬼に噛まれたとはしゃいでいた綾香の気持ちがよく分かる。

蚊に刺されたら痒くなるように、吸血鬼に噛まれたら惚れてしまうのかもしれない。


今でさえ、ふらっと。もうこのままでいいんじゃないかしら、なんて想いが心を過ぎってしまうんだもの。

これが。
ジャックが吸血鬼と猫のハーフというあやふやな存在から、確固とした吸血鬼に変貌したという証なのかもしれない。

私は大きく息を吸う。

込み上げてくる良くない衝動をかみ殺すように、急いで口を開いた。

「ダメよ。
ジャックは私に借りがあるじゃない。
アナタに私を噛むなんて出来っこないわ」

まるで、暗示にでも掛けるようにゆっくりと。低い声でそう告げる。
ジャックのブルーサファイアの瞳を、真っ直ぐに見つめながら。