それを振りほどくかのように、ふっと。
キョウの頬が緩んだ。

「いいよ、ユリア。
気が済むまでここに居ればいい」

「……キョウは?」

唐突に肩から手が離れ、思いがけず不安な気持ちが徐々に胸に満ちてくる。

「先に帰っておく」

「待ってよ、キョウが居なくなったら私。
一人で帰れないわ」

「大丈夫。
指をあげて、パチって鳴らせば行きたい所に行けるから」

「嘘――」

「大丈夫だって、ほら。
たまには、俺の言うこと信じれば?
こう見えても魔王様なんだし。
じゃ」

口早にそう言うと、パチリと指を鳴らし――。

彼は、まるで最初から何処にも居なかったかのように綺麗さっぱりと姿を消した。

それをイリュージョンショウだと勘違いした、周りの人々から盛大な拍手が起きている。
皆、見てないフリでずっとこっちを見ていたのかしら?


呆然としている私は、ジャックに手を惹かれるがままにそのカジノを後にし、冷えるラスベガスの夜の街へと足を踏み出していた。