「巻いてくれる?」

時折見せる、その。
甘い以外にどう表現したら良いのか分からない、うっとりするような笑顔でキョウが言う。

手を触れるのも躊躇うような存在に、ゆっくりとマフラーを巻いていく。
キョウはソファに座ったまま、ゆっくり私を抱き寄せた。

「寒いわけじゃなさそうだな」

低い声が囁いて、震えている私の指先を握る。
心の中に渦巻く雑多な感情が言葉に出来ず、瞳を閉じた私と、キョウはそっと額をあわせる。

クリスマスにぴったり、と言えるような心地良い静寂が部屋を支配する。

「……なるほどね」

しばらくの後、キョウの声があっさり静寂を破る。

そうして、不意打ちをするかのように唇を重ねてきた。
それから、肩に手を置いて真っ直ぐに瞳を覗きこむ。感情のコントロールできない子供を宥めるような優しさを、その瞳に宿していた。


「千人の件は気にしないで。どのみち、魔王の仕事ってそういうものだし。
ジャックのことは、忘れてくれる?
あのふてぶてしい黒猫、こっちで楽しく過ごすなんて簡単に想像がつくだろう。
そして、最後のコレ。
コレはよく分からないな」

言って、キョウはため息をついた。

「俺が遠くに感じるって、どういう意味?」

「……私の頭の中、読めるの?」

私でさえ明確に言葉に出来ない感覚をさくさくと捉えた挙句、的確な返事をくれるキョウに疑問を覚える。