チップを弾む人間には、文句を言わないというのがアメリカ流なのかしら?

キスしている私たちのところに文句でも言おうかという勢いでやってきたウェイターに、キョウがレシートと共にお金を渡すと、態度がころりと変わった。

私たちは入ったときよりもさらに丁重に見送られた。

「ねぇ、お散歩する前にちょっとだけ、部屋に戻ってもらっていい?」

「もちろん」

キョウはぱちりと指を鳴らす。

私は荷物を整理するふりで、黒いマフラーを掴む。
ついでに、メイクも軽く直してソファに座ってケータイを見ているキョウの傍に寄る。

「キョウ」

「ん?」

ケータイを閉じてこちらに向けられるその瞳に、もう、心臓はぎゅうとはねてしまう。
世の中の恋人たちって、心臓発作で死んだりはしないのかしら?

私は自分の心臓がどこまでこの甘やかな刺激に耐えられるのか、自信がなくなってくる。

「あ、のね。
これ。その。
……下手なんだけど、編んでみたの」

どうしよう。
まるで、初めて告白する中学生のように、紅潮している自分がいる。

キョウはふわりと紅い唇を緩ませて
「ありがとう」
と、それを受け取ってくれた。