「俺にもつけてくれる?」

尊大な物言いと相反するような優美な仕草で、ポケットからもう一つ指輪の箱を取り出すキョウ。
私はこくりと頷いた。

その大きな手を掴んでゆっくりとシルバーリングを埋めていく。

「なんかさ、指輪をつける仕草ってアレに似てるよね」

……何に?ってちょっとだけ気になるけど。
  聞いちゃダメ、聞いちゃダメよ、百合亜。

「この、奥深くまで挿(い)れていく感じがさ、ほら?」
なんて続けているんだから。無視、無視。

キョウはあえて返事をしない私を見てくすりと笑うと、ゆっくりとその手につけている指輪を確かめるように見せつけてから、自分の方へと戻した。

「ねぇ、魔界の指輪は?」

「ちゃんと魔界に戻しておくよ。
きっと、あれから発する微弱な磁気が魔界の奴らを呼び寄せるんだ」

……そんな危険なもの、私につけてたの?

ぎょっとして言葉を失う私に、キョウは嫣然とした笑みを見せつける。


「もう大丈夫。
この指輪に呪(まじな)いをかけておいたから。
ユリアが欲しがっているケータイ電話並みには俺と繋がってるよ」

ケータイ電話っていうより、トランシーバーか糸電話みたいねって憎まれ口を叩く前に、テーブルの向こうから手が伸びてきて私を抱き寄せ、唇を塞がれた。

……高級レストランにはふさわしくない行為なんじゃないかしら?

心に浮かんだ疑問は、コーヒー味のキスに呑まれて消えていく。