緩んだはずの教会内の空気が、再び徐々に強張っていく。
キョウを包み込んでいる強いオーラは、誰の視線をも惹きつける。

ジャックが動けなくなっているのが、瞳の片隅に映った。
私もあんな風に惚けた表情でキョウを見つめているのかしら、今。

それを、がらりと崩すかのようにふわっとキョウの紅い唇が綻ぶ。

「本当に、俺のお姫様は我が侭で困る。
まだ、何か足りない?」

我が侭なんて一度だって言ったことないじゃないっ。

そう言いたいのに、言葉が出ない。
ゆっくり首を横に振るのが精一杯だ。

「じゃあ、早くおいで。
日本人カップルのクリスマスイヴは忙しいんだろう?
プレゼントを交換して、一緒に食事をとって、ツリーを見て。
夜はホテルで一緒に過ごす。
教会には行かないんだよね。
……これで、合ってる?」

あんなに横柄な物言いなのに、最後だけ急に、答えあわせを求める学生を思わせる声音に変えるから、思わず笑っちゃったじゃない。

「合ってるならこっちにおいで、ユリア」

「だって、それ、いつの時代の話?
なんだか、ずーっと昔はそうだったって聞いたけど」

足がすくんで動かないので、とりあえず開いた唇を動かす。

「今に決まってるだろう。この前テレビでやってたんだから」

キョウが僅かに肩を竦めた。