「ユリアちゃん、着たからここ開けて、ね?
出ておいでよ」

なんだか、私のほうが立てこもっているみたいに説得されているのはどうにも納得が行かないんですけど。

渋々、ドアを開けて隙間から様子を伺う。

ブルーサファイアの瞳が、甘い微笑みを携えている。
天使が空から降りてきたらきっとこんな姿なんだろうと思わせるような魅惑的な顔だ。

確かにバスローブを羽織ってる。
とはいえ、出来ればせめて洋服を着ていただきたい。

でも、勝手にキョウの服を渡したら怒るだろうなー。
サイズだって、キョウのほうが一回り大きいし。うーん、困った。

心の中でぶつぶつ呟きながら、その手を引っ張られるままに部屋を出て……

って!

私は慌ててそいつの頭を叩いてやった。

人の腕に噛み付こうとするなっ

「だってお腹が空いたんだもん。いいじゃん。
ユリアちゃんって蚊に刺されたことないの?」

「あるけど?」

それが何か?

「それと一緒だよ。知らない間に血を吸われて、それでおしまい。
こっちはお腹いっぱいになるし、そっちはちょっと痒いだけだし。
別にいいでしょ? あんまりケチケチしてると早く老けるよ?」

なんなんだ、その良く分からない強請(ねだ)り方は。
でも、残念ながら、あまりにも柔らかいその話法に負けて、自然と話に耳を傾けている私がそこにいたりもする。

「嫌よ。
……っていうか、本当に痒くなるだけ?」

ああ、巻き込まれてます。もう私、質問のポイントすらずれてない?