「700年、ねぇ。
いいよ」

神様は軽すぎる口調でそう言うと、ジャックが頷くのを確かめてから、ゆっくりと宝石としか表現できないような美しい瞳を眇めた。


石を投げたら当たりそうなほどどこにでも居そうなカジュアルな服装であることが信じられないくらい、神様を中心に厳かな空気が広がっていく。
今まで、まるで放課後の教室を思わせるような雰囲気が漂っていたのに、急速に神様が居る場にふさわしい張り詰めたものに染まっていく。

一瞬のうちに、湖が凍りに変わっていく様子を見せ付けられているようでもあり、私は背筋をぴんと伸ばして息を呑む。

ジャックはもちろん神妙な顔だし、ジュノも息を潜めているかのように教会の片隅に彫像のように立っていた。

その中でキョウだけがまるで流氷の上を我が物顔で歩く白熊だった。
呑まれている感じがまるでない。

神様の周りが金色のオーラで包まれているとしたら、キョウの居る辺りだけは黒いオーラが守っているとでも言えばいいのだろうか。

ちくりと胸が痛む。
神様には手を伸ばしたくないけれど。
キョウも十分に遠くに居るのが当たり前の存在なんだ――。

魔界の(正確には魔界にあるとある国の)、王なんだもんね。


あまりにも近くて忘れかけていたのかもしれない。


さっきまで、何処にでも居るセクハラ好きのお兄さんさながらに私の肩に手を乗せて軽口を叩いていたキョウと、とても同一人物には思えなかった。


こうしていると。
畏れ多くて、手が伸ばせないほど遠い存在にしか見えないよ?