「でも、キョウさん!
そこまでしてもらう必要……」

「うるさいなぁ」

ジャックの声を、キョウが封じた。
拗ねた子供の口調に良く似た言い回しで。
って、別に可愛げがあるわけじゃないけど。

「お前にeternal lifeをやると、ユリアが泣くんだよ。
いい?
俺はユリアを泣かせないって約束したわけ」

……えーっと。
  うちのママと、ですよね?

それが本気なら、義理堅いにもほどがあると思うんですが……。


呆気にとられている私と視線を絡ませたキョウの瞳がすぅと細くなる。
悪魔に似つかわしくないような、優しさを溶かし込んだ甘い眼差しに心の奥が射抜かれる。

ドキリ、と。
心臓が左から右に動いちゃうんじゃないかってくらい、激しい鼓動を感じてしまう。
痛いくらいに、強い鼓動。


「リリーが今後、どれだけ転生しても、二度とユリアにはならないからな」

心臓の鼓動が耳一杯に鳴り響いているすぐ傍で、小さな、とても小さな声でキョウが囁いた。

――否。

それは教会が私に聞かせてくれた都合の良い幻聴だったのかもしれない。


「理由なんて何でもいいだろう。
気まぐれなのは悪魔の特権。
とにかく、早く終わらせれば?
でないと、折角のイヴが終わってしまう。折角ユリアが楽しみにしているのに」

……してませんよー?

尊大な口調で言いながら、キョウが二人の方へと足を進める。
その広い背中をどれほど見つめても、さっきの呟きが事実か幻聴かは、分かりそうになかった。