「ソレで終わり?」

真正面からつまらなそうな声。
っていうか、今の一部始終、そんなに真っ直ぐに見てたんですか? 神様っ!

遠慮っていう言葉、魔界の辞書には載ってないのかしら?

「お望みであれば、続けましょうか?」

私の頭を撫でている黒い悪魔が挑発するような言葉を吐く。

いやいやいや。
そこの二人(いや二匹?)落ち着いて!

「今はジャックのためにここに居るのよね?」

事態を沈静化しようと一生懸命言葉を捜す。

「ふぅん。ジャック、ねぇ?」

と、拗ねたキョウの機嫌は直るどころか余計に悪化したみたい。
指先が無遠慮に私の耳を官能を呼び起こさせる手つきで撫でて行く。

思わず唇に手をあてて、キョウを睨む。

いくらなんでも、ここで変な声をあげるわけにはいかないわ。

私、魔界の神様に睨まれた上、人間界の神様にまで嫌われたら生きていけないじゃないっ!

真っ直ぐに見たキョウの黒い瞳は、一日の終わりにようやく獲物を見つけてしまった肉食獣を思わせた。
私がその獲物だとしたら、目が合ったが最後、動くことさえ許されない。

そんな目線。

私は慌てて手を放すと唇を開く。

「私が好きなのはキョウだけよ?
だってほら、ジャックは拾った猫だから最後まで責任持って飼う様に言ったのはキョウじゃない?
飼い主として義務を果たしているだけなの、ね?」

ようやく、キョウの紅い唇が僅かに綻ぶ。

「最初からそうやって素直になればいいのに」

……そっかな~? 本当にそうかしら。今の一連の流れって脅迫なんじゃないのかしら?

自分の中で湧き上がる正体の見えない霧のような疑問に首を傾げている私を、キョウは一層強く抱き寄せる。