「ユリア」

頭上から降って来る声が存外に冷たかったのでびっくりして視線を上げる。
ここのところあまり目にすることの無かった、氷を思わせる視線。

えーっと。
私今、心に致命傷を負ったばかりなんですけど。

「俺の目の前で、そんなに他のヤツと絡み合って見せ付けるのはどういう趣向?」

久々に耳にする、周りの温度を5℃下げる冷酷な声。
ゾクリ、と。
うっかり忘れかけていた、彼がロクデモナイヤツだったという事実を思い出す。
頭の中に警告音が鳴り響く。

まぁ、なんとなく手遅れなんですけど。私の中のサイレン。
もう逃げられそうにないわよ?

「違うの、気のせ……」

顎を持ち上げられ、唇が塞がれる。
俺の所有物であると周りに見せ付けるような、深いキス。

ちょっと?
教会でそれは、良くない。よくないって。

長い、そして人前にふさわしくないほど深いキスの後。

身も心も翻弄されてふらつく私をご満悦気味に腕の中に抱き寄せて、

「こんな場所で感じちゃうのはいくらなんでもはしたないんじゃない?」

と、つまらなそうに呟くのはどういう趣向かしら?
むしろそっちを伺いたいわっ!