途端。
ふわり、と身体が宙に浮き、どこかのコンサート会場に居るかのような悲鳴が起きた。

超常現象?

……な、わけもなく。
キョウが私を抱き上げたのだ。
そして、この悲鳴はそれに対する抗議、あるいは抵抗の悲鳴。

そういえば、キョウに初めて逢った日も同じような目にあったっけ。
ラスベガスの澄み渡った青い空を見上げながら、そんなことを思い出していた。

「ちょっと、何するのよ?」

至近距離で私を見下ろすのは、不敵な笑みをたっぷり浮かべた極上の顔。

「何って、ユリアが具合悪そうだからこうやって連れて行ってあげることに決めたの。
すぐに着くから待っててね。
ついでだから、お二方に立ち会ってもらおう」

一人ごちて言うと、すたすたと歩き始める。

「××、人を呼び寄せておいた挙句ついでというな、ついでと。
こっちだって色々と忙しい合間を縫ってだなぁ……」

「感謝してます、心から」

テノールの艶やかな声は、一瞬、あの神様ですら黙らせる。

「ほんっと、お前にだけはかなわないな」

ぼそっと呟いた小さな声が、人々のざわめきを掻き分けて何故か、私の耳にまで届いてきた。