キョウはここぞとばかりに後ろから両手で私を抱きしめる。
ちなみに、猫のぬいぐるみはとっくにジャックの手の中に放り投げられていた。

「羨ましいならそう仰ればいいのに。
もっとも、何て言われ様ともこの手は放しませんけどね」

「そうだろうねぇ」

私の頭に遠慮なくキスを落としてからそう告げるキョウに、神様は呆れ気味に肩を竦める。

「ジャックは私の目の前で確かに消えたと思ったんだけど」

「それは違うよ、リリー。
確かに人の姿がゆっくり消えていったのは事実だけど、その後黒猫になったじゃないか。
見てなかったかもしれないけれど」

笑いを堪えるように神様が言う。

そういえば、あの時。
猫の鳴き声が聞こえたような気もしていた。……かもしれない。

「でも、今、人……じゃなくて吸血鬼の姿じゃない?」

「それは、ユリアちゃんのお陰だよ」

柔らかい声で、ジャックが言う。

えーっと。
私は慌てて記憶を辿る。

黒猫を助けようとして、車に撥ねられそうになった……のよね?

「ユリアちゃんの命を助けたの。
覚えてない?人の命を千人救うと願いが叶うって。
その、千人目なんだ、ユリアちゃんが」

――ってことは、私。
  やっぱり死ぬところだったんじゃない――っ

一気に血の気が引いていく。