「そんなはずないだろ」

冷たく言ったのはキョウだ。
丁寧にも、彼の腕は私の腰へとぐるりと回っている。
そうして、車道から遠ざかり、私たちはホテルの塀の傍へと移動した。

キョウは空いている片手で黒いコートをまさぐって、ポケットからあの拳銃のネックレスをつけた黒猫のぬいぐるみを取り出す。

「キョウ、これ持ってきてくれてたの?」

「何、これ?」

私とジャックの言葉のタイミングが被る。
もう、そのこと事態が不服なようでキョウがぽんぽんと、それをお手玉の如く高く放り投げて遊び始めた。

「ちょっと、キョウ」

「いいじゃない。
だって、これ、ジャックのお墓にしようとしていたんでしょう?
本人健在だったら不要だよね」

生きている本人を目の前になんて失礼なことを言うのかしら。
私の頬がかっと紅くなる。

「あのね、ジャック」

言い訳しようと口を開くのを遮るかのように、ジャックはその顔に満面の笑みを浮かべた。

「ありがとう、ユリアちゃん。
その気持ちで十分、報われたよ、僕」

「で、でも。
生きているのよね?」

「神様は義理堅いんですよ、ねぇ。キョウさん?」

ジャックのブルーサファイアの瞳が、きらりと輝いた。