仕方なく開いた瞳に飛び込んだのは、柔らかな金髪。
そうして。
今にも儚く消えてしまいそうな、淡いジャックの笑顔だった。

「……ジャック?」

手に黒猫を抱いた私は、車道に飛び出る一歩手前のところでジャックの腕に抱きかかえられていた。
急ブレーキをかけた車も、何事もなかったかのようにとっくに走り出したみたいで、今はもう何食わぬ顔で車が往来している。

「Hi」

気のよいアメリカ人を真似て、ジャックがにこりと微笑んだ。

な、なんで?
確かに私の目の前で、溶けていく雪のように綺麗にその姿をなくしたわよね?

事態が飲み込めない私は、見慣れたはずの整ったジャックの顔を穴が開くほど見つめる以外にどうすれば良いのか見当もつかない。

「で、俺はいつまでこれを眺めていたらいいのかな?」

予想通り、後ろから不機嫌そうなテノールボイスが降ってきた。

「キョウさん。
お久しぶりです」

緩やかに私から手を放しながら、ジャックは人懐っこい猫を思わせる笑いを浮かべた。

「何、その猫は。
お前の手下?」

キョウはつまらなそうにそう言った。

「いやだなぁ。
見知らぬ他猫ですよ」

笑顔でそう応えた直後、ジャックの瞳が丸くなる。

「まさか、ユリアちゃん僕だと思って助けてくれたの……?」