「じゃあね」

別れの言葉が耳元で囁かれる。
私は思わず手を伸ばした。

掴んだのは、多分、人の手。
形状からしても、暖かさからしても、多分、そう。

「ユリア。我慢できない?」

と。
別の意味を含んだような言い回しで、低い声が笑う。

「出来ないって言ったら?」

「そんな大胆に誘ってくれるなんて。
俺としては大歓迎だけど」

……誘ってる?私が、一体何を?

首を傾げる私が面白いのか、まだ、低い声が笑い続けている。

「もうっ。
何なのよ!」

唇を尖らせる私を見て、誰かの手が私の頭を撫でた。

「やっぱりユリアはこうでないと」

……どうだと言うんですか?
  不機嫌にさせて、楽しんでます?

ふと。
彼の笑い声が止まる。

そして、耳朶にそっと唇が寄せられる。

「どうせ、目が覚めたら忘れちゃうんだって。だから、それまで楽しもうか?」

……官能を呼び覚ますようなその声に、背筋にゾクリと電気が走った。
左右にも上下にも、首が動かせない私を楽しむかのように、ゆっくりと耳元に舌が這う。