「ユリア」

低い声は優しく、とても耳に馴染んだものだった。
私はひどく頭が痛くて、どうしても目を開ける気になれない。

「いいよ、そのままで」

困った子だね、と。
全く困ってない感じでその声が言い、耳元に甘い吐息がかかる。

「……誰?」

「だーれだ」

子供が戯れるような口調で、テノールの声が言う。
そうして、少しだけ切なげな色をつけて笑って見せた。

「誰?」

「ユリアが一番好きな人」

変なのって思ったけれど、それがなんだかことのほかしっくりきたので、私は突っ込まないことにした。

「大丈夫?」

「分からないわ」

何に対する質問かも、分からなかった。

「そう」

返事なんて特に興味がなかったのか。
その人は私を、そっとそっと壊れ物でも扱うようにそおっと抱きしめる。
私はまるで、自分がダイナマイトにでもなった気分がしたほどだ。