「でね、そんな中でもさ、やっぱり不機嫌な人もいるわけ。
カジノだからね。
どう考えたって、負ける人が多いでしょう?
そうしたらやっぱり、街の片隅に居る黒猫を蹴りたくなったりもするんだよね」

……うっそ?

ジャックは涼しい目元でなんでもないことのように話すけれども、私のわき腹が痛むような錯覚を覚えた。

「大丈夫、ユリアちゃんが蹴られるわけじゃないから、ね?」

と、お返しのようにジャックが私の髪を撫でてくれる。
氷のように冷たい手だけれど。
それはそれで心地良かった。

「まぁ、そんなわけで、普通に幸せだったり不幸だったりして、長い間あそこで暮らしていたんだ。
いろんな人が居て、いろんな人を助けて、いろんな人に助けられた。
砂漠の真ん中の、あそこは夢の街なんだ」

「それなのに、日本に帰ってきて良かったの?」

もうすぐ最期っていうのに。
好きな場所で、最期を迎えたいんじゃないかと。

さすがにそうは言えなくて、私は必死に言葉を捜す。

ジャックはくすりと、柔らかい笑みを浮かべた。

「いいよ、ここにだって普通に幸せも不幸もある。
それに、ユリアちゃんもアヤカちゃんもここで困っているんだったら、少しは僕に手伝えることがあるんじゃないかなって、思ったりしてるんだよ?」


本当に良い事を言うわー。
アイツにも、爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。


……そう思って、私は目を見開く。
  アイツって、誰だっけ?

その先は、やっぱり、眩しいほど一面の白い世界が続くだけ。