「あら、百合亜ちゃん。
どうしちゃったのかしら?」

毛布越しにママの不思議そうな声が聞こえてくる。
私が赤ん坊の時分、彼女はどうやって私を育てたのか聞いてみたくなる衝動に襲われるのはこういう時だ。

全く娘の現状を理解しようとする気が見えないんですけど?

「お疲れなんですよ、きっと。少し寝ていれば治ると思いますよ」

そんな私を救ってくれるかのように、エイイチロウさんが穏やかに切り出した。

「あら?
フナコシさん、お久しぶり」

ママの気持ちががらりと、私からエイイチロウさんに移ったことを表すほど分かりやすく声音が代わる。

「折角なので少し、外でお話しませんか?
先ほどの黒猫の話にも、とても興味がありますので是非聞かせてください」

ナンバーツーホストであることを髣髴とさせるような、主導権を握る切り出し方。
私からは見えないけれど、その視線も仕草も、ぐっとママの心を捉えているに違いない。

「そうね。
折角だからそうするわ。
そうそう、この近くに素敵なレストランがあるのよ。一緒にランチでもいかが?
パパは今からお仕事に戻るのよねぇ?」

……パパ。
  この状況で何かご意見はありませんか?


私は少しだけ、パパの切なさを噛み締めずにはいられなかった。