でも、そんなことよりも。
ママ、今何て?

私は最後の言葉で、ラスベガスの猫を使った詐欺事件などどうでもよくなってしまった。

右京くんって、誰?

聞きたかったのに、それを口にしようとした途端。
ずきりと、激しい頭痛に見舞われた。


私は思わず頭を抱える。

「百合亜、まだ、体調が十分じゃないんじゃないのかい?」

パパがママの話を強引に止めて声を掛けてくれた。

「顔色が悪い」

「うん、ちょっと疲れたかも。
私、寝るね。また、退院出来る日に迎えに来て?」

私はパパの返事も待たずに毛布の中に潜り込んだ。


右京。
キョウ。
その言葉を頭痛に耐えながら反芻するたびに、頭を過ぎる黒い影。
胸を焦がすような熱い感覚すら覚えて、私はいわれのない眩暈に襲われる。


ぐるぐるぐるぐる、世界が廻る。
ああ、これって。

あの、白い世界から遠ざかっていくときにちょっと似てるわ。
なんて素っ頓狂なことを考えている自分に少し驚く。

……白い世界って、なぁに?

ねぇ。


教えて、キョウ?