私の視線に気づいたのか、ママはにこりと微笑んだ。

「そう、素敵なコートでしょう、これ?」

この程度で驚いてはいけない。
世界の中心は自分、のママにしてみれば娘の怪我の状態よりも、今時分が着ているコートについて説明することの方がずっとプライオリティが高いのだ。

「ええ、とても」

もっとも、回復している私だってことさら怪我の状況を説明するつもりもないのだから、ママの話でも聞いていたほうが気が紛れるというものだ。
隣に所在無く立っているパパは、私に心配そうな視線を向けてくれている。

それだけでも、私、幸せ者だと思ったほうが良いわよね?

「どうしたの、それ?」

私は、残り少ないクリームを人差し指で強引にかき集めるかのように、ほとんど存在しない好奇心を瞳に無理矢理かき集めてママを見る。

「それがねー、ラスベガスで幸運の子猫ちゃんを借りたのよ。
知ってる? 今、世界一有名な幸運の子猫ちゃん☆」

ちっとも話が見えないけれど、レアモノのキティちゃんグッズを手に入れたキティラーの如く幸せな、少女のような笑顔を浮かべているママに突っ込むことも出来ず、私は首を横に振った。

もちろん、消えそうな好奇心の蝋燭に強引に火を灯しなおすことを忘れずに。

「えー、知らない。
何、それ?」

テンションとしては、高校の教室であまり興味のない話題についていくときと同じにしておけば良いのだから、さして無理はしなくてすむ。
女子高生の特権かしら?