本物の夢は随分私に優しかったようで、次に目が覚めた時には随分と楽になっていた。

記憶のない私に、それがキョウという魔王様が唱えた呪い(まじない)のお蔭だなんて、分かるはずもなかった。


カーテンを開け放った病室の中には、清潔で清々しい朝の光が射し込んでいた。
その目の眩むようなまぶしさに私は僅か、瞳を細める。

「ユリア様」

枕元に、人の気配がして私は驚いて顔を上げた。

そこには、仔犬を彷彿とさせる無邪気な笑顔を携えたホストのエイイチロウがいた。
一度、街で会って「初心者は五千円ポッキリだから!」なんて誘い文句と、凄腕営業マンだけが使うことの出来る甘い笑顔に負けて、行ってしまったことがある、ホストクラブの人気ナンバーツー。

それにしても、私、彼が見舞いに来てくれるほど親しかったかしら?

人懐っこい笑みを見ながら、頭の中は疑問符だらけだ。

「あの、エイイチロウさん、どうしてここに?」

「アヤカから聞いたんだ。心配になって」

なんて営業熱心なホストなのかしら。
私は目を丸くする。

「あの、私、そんなにお金持ってないし、その」

焦る私を見て、エイイチロウさんの笑顔が曇る。