「私は、何を忘れているの?」

こんな変人に質問してどうするというのか。
自分でもよくわからないままに私は口を開いていた。

神様と名乗るそいつは大仰に肩を竦めて見せた。

「さっき言ったじゃないか。
ああ、今のリリーは少し壊れているから、理解できないんだね。キョウのことも見えないんだろう?
仕方がないな。話せば長くなるんだが、大丈夫かい?」

駄目だといわせる気がまるでない口調でその人は続けようとした。
途端、
その人のパーカーが、乱暴に引っ張られるのが見えた。

……やっぱり、真冬の怪談?

私は背中がぞわりと粟立つのを隠せない。

「ユリア、ごめんね」

神様と名乗る人とは別の、耳に心地良い低い声がまた聞こえた。
そして。
直後、私はぎゅうと誰かに抱きしめられた。

気がした。

目を開けていても、透明な空気しか見えないのに。
確かに背中にぬくもりを感じた。