「ああ、面倒だなぁもう。
だいたい、神様って言うのは忙しい存在なんだ。
分かるだろう?
神様が暇していたら、誰も彼もが困ってしまうからね」

神様はそういって、私を見てにこやかに微笑んだ。
確かに。
京都で見た仏像の微笑を思い出させるような、穏やかな笑みではある。

「リリー、ここにキョウが居るから『記憶を消して』って頼んでくれないかな?
そうしたら君は自由になれる。
もう、魔界との関わりも終わりになるし、変なヤツに付きまとわれなくていいぞ」

変なヤツとは、ご自分のこと?

とてもそうは思ってないような口ぶりに、私は首を傾げる。

「記憶?
でも、私どうも記憶が消えているような気がするの。
その……強盗に背中を刺されたとか聞いたんだけど、全然思い出せないの」

神様は、ぞっとするほど綺麗に笑って見せた。

「ついでだから、思い出せないことも綺麗さっぱり忘れちゃえば?
幸せになれるっていう神様からの保証書つきでさ」

その自信が何処から来るのか。その人はえへんと胸を張っている。
なんていうか、高級ブランドの香水の広告にそのまま使えそうな優美な立ち姿ではあるけれど。