さぁあ、と、嫌な風が私の真後ろで巻き起こった。
もちろん、部屋の窓は閉まっているのに、だ。

直後。
有無を言わせずに後ろから私を抱きしめる、眉目秀麗、容姿端麗、私が持っているボキャブラリーでは到底言い表せないほど、ひたすらイケメンのその男は。


残念ながら、「人」ではなくて。
魔界とやらに暮らす、「魔王様」という生物。

えーっと、いかなる時でも魔王と呼び捨てにせず、きちんと「様」をつけなければいけません。これを付け忘れると想像を絶する酷い目にあいますので、ご注意を。

目下魔界と、彼曰く『俺とユリアの愛の巣』という名の、とあるマンションの最上階を行き来しつつ暮らしている。

その距離わずか、指を一度パチリと鳴らす程度。……余韻も含めて3秒弱?

もっとも、私がどれほど指を鳴らしてもダメなんだけどね。これ、何故か人間には仕えないという不便な代物。