「いいよ、口にしてあげる」

低い声が笑いを含んだように感じた。

直後。

ふわりと、唇に何かの気配を……正確に言えば、キスをされたような感触を……感じたのだ。

「きゃぁっ」

叫ぼうとした私の口を、誰かが後ろから塞ぐ。

「真夜中の悲鳴が病室から聞こえるのは穏やかじゃないからねぇ」

今度は、さっきまでの低い声とはまた違う。
どちらかと言えば、軽い感じの声がして。

本能に従ってさっと振り向いた私は、思わず言葉を失った。

「やあ、リリー」

私の目の前には。
良く出来たマネキン人形に命を吹き込んだのかと思われるような、絶世の美人が立っていたのだ。

彫りが深く、色が白く、金色のうねった髪の毛は腰までの長さだ。

完璧なまでの八頭身。筋の通った鼻に口角の上がった薄紅色の唇。
ガラス細工を思わせるような青みがかったグレーの瞳に、形の良い耳。

ざっくり羽織ったパーカーと薄手のセーターにジーンズという出で立ちすらも素敵に見えるから怖ろしい。

ハリウッドスターでも、ここまで素敵な人は見たことないってくらいの、美人ぶりに私は思わず言葉を失う。

「とりあえず、病み上がりなんだから座っていなよ」

その完璧な姿の人は、まるで自分の家に私を招いたようなフランクな口ぶりで、私をさっきまで寝ていた病室の簡素なベッドへ座らせた。