「ユリア」

ふと、漆黒の闇の中から名を呼ばれたような気がした。
慌てて病室の窓を見るが、そこは鏡のように自分の姿がおぼろげに映っているだけだ。

……も、もしや真冬の怪談?

ぞっとして私はカーテンを下ろした。

「ユリア」

再び、艶やかと言って過不足ないような声がどこかから聞こえてきた。

「誰?」

私は部屋をぐるりと見渡す。

個室になっている小さなこの白い部屋には、他に人影もないし、人が隠れるようなところもない。

もっとも、私には霊感もないし、ここがいわくつきの部屋かどうかも知らないけれど。

「ユリア」

三度目の声には、色がついていた。
上手くいえないけれど、こう、愛しさを篭めたような。
愛する者を呼ぶときのような。

そういう、「色欲」を感じさせるような色。

……って、私。
  彼氏も居ないのになんでそんな風に思うんだろう。

あれ?欲求不満ってヤツかしら。

自分で思って、思わずかぁと頬が紅くなる。

「ユリア」

四度目。
ここまで来たら、幻聴じゃないって思ったほうがいいのかもしれない。

ぐるぐる見渡しても、部屋の中にはやっぱり誰も居ない。
気になって、病室のドアを開けてみたけど、ちょっとぞっとするような真っ暗な病院の廊下が延々と続いているだけだ。
リノリウムの床に寒気を感じて、ばたんとドアを閉める。

「誰なの?」

とりあえず、私の名前はいいから他の何かを口にして欲しい。